小林光氏
講師紹介
小林 光氏
環境省大臣官房秘書課長。1949年東京生まれ。1973年慶應義塾大学経済学部卒業。環境庁入庁後、主に環境と経済、環境ための計画、地球環境等に係わる諸問題を担当。1979〜81年パリ大学大学院都市研究所、1993〜94年米国東西センター客員研究員を歴任。


1.地球温暖化問題とは

地球温暖化とは、地球表面の気温が上昇して気候が変わる現象である。20世紀の間に地球の気温は、0.4〜0.8度上昇した。とりわけ1985年以降の高温傾向は顕著で、このまま進むと2100年には、1.4〜5.8度上昇すると予測されている。原因は、二酸化炭素、フロンなどの温室効果ガスの放出や森林破壊、砂漠化の拡大などである。これらの原因物質によって引き起こされる地球温暖化のメカニズムは、科学的知見が明らかになっている。地球温暖化は、海氷・積雪の減少、海面水位の上昇、エルニーニョの激化など、世界の各地で深刻な悪影響を引き起こすことが予測されており、このまま何の対策もとらずに地球温暖化を放置すれば、明確な費用換算は難しいが、莫大な影響が現われるであろうといわれている。特に最貧国の暮らしに拍車をかける。単に環境の問題だけではなく、人間生活への影響に深刻な問題を及ぼすのである。




2.対策 〜地球温暖化に関する最新の科学的知見(IPCC報告)

地球温暖化問題は、将来引き起こされるかもしれないという科学的予測を現在の政策に結び付けなくてはならないという点において、極めて画期的な問題である。地球温暖化問題において政策と科学は不即不離の関係にある。それは、環境問題が起きてから原因を究明し対策を取るという今までの解決手法ではなく、地球温暖化問題は、起きてからでは完全解決に向けての対策はとれない問題だからである。随時予測の段階で対策をとらねばならない、極めて難しい問題なのである。将来の事象を予見しつつ、現段階から対策をとる。これが、地球温暖化問題が、単純な解決策が望めない難しい問題といわれる所以である。

したがって、現段階からの対策をとるためには、世界各国との交渉が必要である。そして、交渉し合意するための根拠として、地球温暖化問題に対する科学的知見が必要である。将来の気候がどのようなものになるのか、電算機によるコンピュータシミュレーションを行い予測をした「気候モデル」というものである。データを示し対策をとるために諸外国と交渉しても、科学的根拠に説得力がないと合意が難しく国際会議で議論となる。そのために、この分野ではIPCCという組織が設けられた。IPCC:「気候変動に関する政府間パネル」である。このIPCCの設置は、国際的な政策決定の手法としても画期的なものである。IPCCでは、IPCCそのものが研究するのではなく、世界中のいろいろな科学者が書いた論文をスクリーニングし、論文の中からエッセンスをとりまとめていく科学者の組織である。現在までに3回の報告書をまとめている。


    
地球温暖化に関する最新の科学的知見(IPCC報告)

地球温暖化の現状や将来予測については、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の場において、世界の第一線の科学者が継続的に評価を実施。本年1月〜3月にかけて、第3次評価報告書をとりまとめたところ。

IPCC第3次評価報告書の概要
気候の変化
(第1作業部会)

過去50年間の温暖化の大部分は人間活動に起因
さらに21世紀末までに、1990年と比べ
  ・地球の平均気温が、最大5.8℃上昇
  ・平均海面水位が、最大88p上昇
  ・豪雨、渇水などの異常気象現象が増加

影響・適応
(第2作業部会)

温暖化は、すでに脆弱な生態系に影響
さらに次のような影響を予測
  ・40pの海面上昇で世界の浸水被害が7千5百万人から2億人増加
  ・途上国の農業生産等に大きな悪影響を与え、南北格差が拡大
  ・生態系の破壊、伝染病の拡大
緩和政策
(第3作業部会)

対策技術面で大きな進展
  ・全世界の排出レベルを2010〜2020年において2000年水準以下にできる可能性

排出量取引で京都議定書の実施コストが低減
  ・先進国の2010年におけるGDPの損失を半減させることが可能

多くの技術・社会・制度的な障害の克服が必要





3.温暖化防止のための国際交渉

気候変動枠組み条約(1992年採択、1994年発効)
    先進国は1990年代末までに温室効果ガス排出量を1990年レベルまでに戻すことを目指す(努力目標)
   
気候変動枠組み条約京都議定書(1997年京都会議<COP3>で採択)
    先進国に法的拘束力のある数値目標を各国ごとに設定。2008〜2012年において1990年比で日本は−6%、米国は−7%、EUは−8%
   
気候変動枠組み条約第六回締約国会議(COP6 2000年11月)
    京都議定書の運用ルールについて合意に至らず
運用ルール(例)
  ・森林等の呼吸量の算定
  ・排出権取引等京都メカニズムのルール
  ・目標未達成の場合の罰則
COP6再会会合(2001年7月)
    京都議定書の運用ルールの中核的要素について基本的合意(ボン合意)が得られる(米国は合意に参加せず)
   
COP7(2001年10〜11月 マラケッシュ(モロッコ))
    京都議定書発効に向けて、ボン合意を踏まえ運用ルールの成文(テキスト)での合意を目指す。





4.京都議定書の要点
○先進国の温室効果ガス排出量について法的拘束力のある数値目標を各国ごとに設定
    
 対象ガス二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、
代替フロン等3ガス(HFC,PFC,SF)の合計6種類
 吸収源森林等の吸収源による二酸化炭素吸収量を算入
 基準年1990年(HFC,PFC,SFは1995年としてもよい)
 目標期間2008年〜2012年の5年間
 数値目標先進国全体で少なくとも5%削減を目指す
各国の目標 日本は−6%、米国は−7%、EUは−8%等

○国際的に協調して目標を達成するための仕組み(京都メカニズム)を導入
    
 排出量取引先進国間での排出枠(割当排出量)をやり取り
 共同実施先進国間の共同プロジェクトで生じた削減量を当事国間でやり取り
 例)日本・ロシアが協力してロシア国内の古い石炭火力発電所を最新の天然ガス火力発電所に建て替える事業
 クリーン開発メカニズム先進国と途上国の間の共同プロジェクトで生じた削減量を当該先進国が獲得
 例)日本・中国が協力して中国内の荒廃地に植林を行う事業

【工夫が見られる点】
  
1)温室効果ガスは他にももっと多くあるのだが、6つのガスを対象としたこと。温室効果の係数を重みづけして、二酸化炭素に換算した合計量について、減らすということである。各国の事情によって例えば、二酸化炭素は減らしにくいがメタンなら減らせるとか、代替フロンならできるとか、状況によって対策の方法が選択できること、自由度が与えられたことである。各国の事情に合わせて費用効果が良いように対策が進められるのである。
2)温室効果ガスの出現の仕方は、年によって異なる。暖冬だったりそうでなかったりして効果が異なるために、目標をとりあえず5年の合計量とした。
3)数値目標も国によって議論があったが、微妙なバランスでわずかな差にとどめられた。目標を設定する上で、各国の対策実施が柔軟にできるようにしたのである。
4)国際的に協調して目標を達成するしくみ(京都メカニズム)を導入したこと。

現在、京都議定書を発効させるための様々な課題に取り組んでいる。

  ◆COP6再開会合の成果    平成13年7月16日〜27日,ボン
閣僚会合で、京都議定書の運用ルールの中核的要素について基本合意
 
    
 途上国支援途上国の能力育成、技術移転、対策強化等を支援するための基金を設置し,先進国が任意拠出
 京都メカニズム国内対策に対し補足的(定量的制限は設けない)
共同実施、CDMのうち原子力により生じた排出枠を目標達成に利用することは控える
 吸収源森林管理の吸収分は国ごとに上限設定(日本は基準年排出量の3.7%分が確保される見込み)
CDMシンクの対象活動として、新規植林及び再植林を認める
 遵守目標を達成できなかった場合は,超過分の1.3倍を次期目標に上積み
 
 
    
京都メカニズム、遵守、吸収源の詳細ルールの決定と法的文書化
 
   
  ◆COP7における対応
平成13年10月29日〜11月9日,モロッコ国マラケシュ
 
   
ボン合意に基づいて、京都議定書の運用ルールの法的文書につき最終合意を目指す





5.各国のとりくみ
<1>EUにおける京都議定書目標と温室効果ガス排出の状況
    
(1)EUにおける京都議定書目標
  
京都議定書における温室効果ガス排出削減目標は、1990年比でEUが−8%、日本が−6%であるが、ボン合意に基づく森林管理の吸収量上限値を考慮した場合には、EUが−7.5%、日本が−2.1%となりその差が拡大している

1990年の排出量の約半分を占めるドイツと英国では森林管理による吸収量上限値を考慮しても、削減目標の水準がほとんど変わっていない

<図: ボン合意に基づく森林管理の吸収量上限値を考慮した場合の各国削減目標>
森林管理による吸収量を考慮した場合の削減目標


ボン合意に基づく森林管理の吸収量上限値を考慮した場合
京都議定書の第一約束期間の削減目標(1990年比)
(出所)欧州連合 http://europa.eu.int/comm/environment/docum/00749_en.htm
(注)各国の温室効果ガス排出量の値には様々な前提がある


    
(2)EUにおける温室効果ガス排出の状況
   
EUにおける京都議定書目標達成に向けた温室効果ガス排出削減状況(1999年時点)は、全体で見ると順調であると言えるが、個別の国で見てみると、むしろ目標達成が容易ではない国の方が多い

EU全体で見て排出量削減が順調に見えるのは、全体の排出量の約半分を占める、ドイツと英国での排出削減が寄与しているためである

しかしながら、2000年のCO排出量(推測値)は、英国では前年より2%増、ドイツでは0.2%増(エネルギー起源のみ)と増加傾向に転じており、今後の削減は容易ではなくなってきている

EU全体の排出量に大きな影響を持つ英国とドイツが排出増大傾向となったことにより、EUとしての京都議定書目標達成のためには、、相当な努力を必要とする状況になってきている


    
<表:EU各国の京都議定書目標と温室効果ガス排出量の状況>
国名 京都議定書目標
(EU内再配分後)
99年温室効果ガス
排出量増減率(対90年)
オーストリア −13.0% 2.6%
ベルギー −7.5% 2.8%
デンマーク −21.0% 4.0%
フィンランド 0.0% −1.1%
フランス 0.0% −0.2%
ドイツ −21.0% −18.7%
ギリシャ 25.0% 16.9%
アイルランド 13.0% 22.1%
イタリア −6.5% 4.4%
ルクセンブルグ −28.0% −43.3%
オランダ −6.0% 6.1%
ポルトガル 27.0% 22.4%
スペイン 15.0% 23.2%
スウェーデン 4.0% 1.5%
英国 −12.5% −14.0%
合計 −8.0% −4.0%
(出所)欧州環境庁 
 http://org.eea.eu.int/documents/newsreleases/
newsrelease20010423-en

  
現在のところアメリカは、京都議定書の採択に参加しない表明をしているが、私は、いずれアメリカは、もっと費用効果の良い案を提示するか、それができないのであれば後づけの形ででも参加するしかないのではないかと思う。
また、アメリカが参加しないのであれば、日本も参加しなくて良いという人がいるが、私はそうは思わない。そもそも京都議定書の発効条件は、以下の二つである。
   1)締約国が55ヶ国になること。
   2)先進国の加盟国が出す排出量が、先進国全体の排出量の55%をカバーすること。
55%の意味とは、アメリカが抜けても発効するということである。

  
したがって、日本はアメリカが参加するか否かの問い以前に、この議定書を発効させるために積極的に努力をしなければならないのである。


<2>日本のとりくみ
わが国の方針
  
◆国会決議(抄)
   参議院 (平成13.4.18)
  
    日本は地球温暖化防止京都会議(COP3)の議長国として京都議定書をとりまとめた特別の経過がある。したがって、政府は率先して批准し、地球温暖化防止の国内制度を構築するとともに、京都議定書の2002年発効を目指して国際的なリーダーシップを発揮すべきである。
   衆議院  (平成13.4.19)
  
    日本は地球温暖化防止京都会議(COP3)の議長国として京都議定書をとりまとめた特別の地位にある。政府はもとより、立法府である国会、その他あらゆる各層が一丸となって地球温暖化防止の国内制度を構築するとともに、我が国は早期に批准し、京都議定書の2002年発効を目指して国際的なリーダーシップを発揮すべきである。

  
◆政府の基本方針
  
京都議定書の2002年発効を目指し、COP7までに最終合意を達成すべく全力を尽くす

  
京都議定書の目標を達成するための国内制度に総力で取り組む

  
米国を含めた合意が形成されるよう、日米ハイレベル協議等を通じ、引き続き最大限努力していく


【地球温暖化対策推進法(1998年10月成立。1999年4月施行)
  
  
この法律は、地球温暖化対策を目的に、国・地方公共団体・事業者・国民の各主体の取り組みを推進する法律である。基本方針を定めるほか、自治体の事務・事業についての実行計画の策定義務づけ、地球温暖化防止活動推進センターの設置などを定めている。全体としてゆるやかな努力目標規定が多い。京都議定書の目標達成は目的ではなく、その達成を担保できる内容ではない。

地球温暖化対策推進法の構造
  
目的:
この法律は、地球温暖化が地球全体の環境に深刻な影響を及ぼすものであり、気候変動に関する国際連合枠組条約及び気候変動に関する国際連合枠組条約第三回締約国際会議の経過を踏まえ、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ地球温暖化を防止することが人類共通の課題であり、すべての者が自主的かつ積極的にこの課題に取り組むことが重要であることにかんがみ、地球温暖化対策に関し、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、地球温暖化対策に関する基本方針を定めること等により、地球温暖化対策の推進を図り、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。


  
今後、日本については、現在の二酸化炭素排出量の1/2〜1/3くらいのオーダーで暮らせるようにならなければいけないだろうう。
我々は、地球温暖化問題という今までの環境問題とは質的に異なる困難な問題に向かって一歩を踏み出そうとしている。将来世代の地球環境のためにも、大きく踏み出さなくてはならない。





6.ホームページ
   
環境省 http://www.env.go.jp/
全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org/
国連気候変動枠組条約事務局(英文) http://www.unfccc.de/
気候変動に関する政府間パネル(英文) http://www.ipcc.ch/


 
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