松葉邦雄氏
講師紹介
渡辺 豊博氏
静岡県生活・文化部 NPO推進室室長。
グラウンドワーク三島実行委員会事務局長。


1. グラウンドワークとは何か

グラウンドワークとは、1980年代にイギリスの農村地域で始まった、「パートナーシップによる、地域での実践的な環境改善活動である。」 地域を構成する住民、行政、企業の三者が協力して専門組織(トラスト)をつくり、身近な環境を見直し、みずからが汗を流して地域の環境を改善していくものである。

グラウンドワークには、自然環境や地域社会における 「よりよい明日に向けての基盤整備」と私たちの生活における「現場での創造活動」 という意味が込められている。

現在、私は三島市における7つの市民団体の事務局長を担っており、「グラウンドワーク三島実行委員会」もその一つである。
「グラウンドワーク三島実行委員会」は平成11年10月1日にNPO法人の認証を受けることができた。
これからは、今までの「活動体・運動体」という動きから、「組織体・事業体」としての転換を進め、大きく成長を図ろうとしている。

今年、全国で約2000億円の緊急雇用対策費が予算化された。
静岡県においても約52億円が緊急雇用交付金として国から予算化された。
県に半分の26億円、74市町村に26億円が交付される。
74市町村のうち48市町村が約200の事業を、この交付金で行うことになった。
そのうちNPO法人に委託するものは、静岡県では52億円の内1件 しかなかった。
「NPOと行政との新しいパートナーシップの構築」などと謳われているにもかかわらず現実はこの程度である。
しかし、この一件の委託先が「グラウンドワーク三島実行委員会」となっている。

「水の都・三島アメニティ資源大百科事典」を三島市民が主体となってつくっていく委託事業を三島市から委託された。
「グラウンドワーク三島実行委員会」では約20人の専属スタッフを新規雇用してこの事業をこなし、財政基盤の強化と新たなる人的ネットワークの拡充を進めるものである。

「NPOは自立が大事」と聞くが、実際のNPOには、自前でお金をかせぎ安定的な運営基盤を確立していくためのノウハウが乏しく、人を雇用して新たな事業を創設し利益をだしていくという企業的センスをもって組織を運営していく実践的なマネジメントの能力は低い。
しかし、市民運動の最終目標というのは、いわゆる「市民企業化」である。
この企業の意味は、企業と起業の二つの意味があると思う。一般的な企業の役割に加えて、「市民による新しいベンチャービジネスを起こす」との意味も含まれる。
「グラウンドワーク三島実行委員会」も「市民企業・起業家」としてあらたな市民ビジネスを創造できるような先駆的な活動を起こしていきたいと考えている。

グラウンドワークとは何か、キャッチフレーズ風に言えば、「みんなで協力、身近な環境改善」である。
 ◆みんなで
 ◆協力
 ◆身近な
 ◆環境改善

現在日本で行われている市民運動の中で欠けているのが、この4つの視点ではないかと思う。
「みんなで協力、身近な環境改善」簡単に言っているが、じつはとても難しい。
真のパートナーシップをつくっていくということはそんなに簡単なことではない。
「みんなで」とは、社会を構成している「市民」と「企業」と「行政」を指す。
グラウンドワークが始まった1980年代のイギリスの社会情勢は、現在の日本とよく似ている。
当時のイギリスは、国家財政が破綻し、行政改革や地方分権を断行しなければならない非常に厳しい状況であった。
しかし、環境悪化が進行する地域の環境改善には取り組んでいかなければならない。
そこで生まれた発想がグラウンドワークである。
グラウンドワークは、単純な市民運動ではなく国家や地域のシステムを新しく創り直す、再生する社会運動であるといえる。

1980年代のイギリスのように財政の逼迫化が進む現在の日本において、市民、行政、企業がそれぞれの役割と責務を認識し合える、健全なる市民社会の姿に今の日本を変える、新しい処方箋は誰が握っているか。
明治維新において新しい国家をつくろうとした人々は皆地方の人々である。
もし平成維新があるならば、地域が地域を良くし、その実績を見せて初めて日本という国の新しい社会システムになり得るのではないか。
黙って待っていても、今までのように国や県から方向性を示されるものではない。

地域の特性を生かしたそれぞれのオリジナリティーや汎用性のある処方箋を、地域の中で苦しみながら市民はつくりだしていかなければならない。
パートナーシップとは三者の対等な関係を指している。
しかし今の社会の中で、実際には、「市民」、「企業」、「行政」が対等な立場に立っているのか。
行政は何でもやりすぎてはいないか。
市民は、行政に依存しすぎてはいないか。
企業は、自分達が社会を支えるという自覚があるのか。
このような「ゆがんだ関係」を「対等な関係」に再生し直さなければならない。
パートナーシップの関係をつくっていくには、相手の立場と役割を認識しあうことが重要である。
すなわち、グラウンドワークとは、この「ゆがんだ関係」を元にもどす活動なのである。

理想形は、「市民」、「企業」、「行政」の三者が、それぞれ3分の1の責任を持ち合う、平等な責任分担の社会をつくることである。
これが真なるパートナーシップの社会である。

イギリスでは、パートナーシップの社会を創るために、グラウンドワークの手法を使った。
財政破綻をきっかけに行政の役割が小さくなって社会に公共サービスの隙間ができた。
そこにどんな現象が起こったか。
行政が小さくなるということは、公共サービスの質が低下することである。
この隙間が拡大してくると、地域は助け合いの必要性に気づく。
今から地域の中に助け合いのシステムをつくっておかないと、何か事が起きたときに他人を頼れない。
隣の人が助けてくれるような、思い合い、助け合いのシステムをつくっておくことが求められている。
イギリスがやったことは市民の自立、企業の社会参加、行政のスリム化を促し、義務と責任の所在を明らかにしたことである。
企業は企業の論理で行動しない。
企業が社会の中で何を果せるのかを考えていただき、お互いが助け合うシステムをグラウンドワークを通して具現化した。


2.事例/「グラウンドワーク三島実行委員会」実践へのステップ

<1>活動の背景
「水の都・三島」は昭和30年代まで富士山からの湧水が町中に流れ、美しい水辺空間と自然環境を誇っていた。
しかし、近年、上流地域での地下水のくみあげや開発の進行、放置森林の増加によるかん養力の減退等の原因により富士山からの湧水が減少。
そのために冬場には湧水池や湧水河川が枯渇し、環境悪化が進行し豊かな水辺環境が消滅の危機にさらされた。
市内を流れる湧水も水量が減少し、加えてゴミの投棄や下水路化により悪臭を放つようになった。
このように、三島市民の環境に対する具体的な対応と迅速な行動が必要とされる危機的な状況に追いつめられたことが、活動の背景になっている。

<2>ネットワーク化
そこで、今までバラバラに活動してきた市内の15の市民団体(三島ゆうすい会、(社)三島青年会議所、三島ホタルの会など計15団体)が一堂に会し、市民パワーの結集を図ることによってこの問題を解決しようと、半年近い根回しとネットワーク化の是非論を経て1993年9月、「グラウンドワーク三島実行委員会」が設立された(現在、4500人が参加)。
この市民団体の組織化により、各市民団体の事業計画や各種情報が頻繁に交流されることになった。
そして、相互に連携と調整がとれた環境改善活動の推進体制が整備されることとなった。

<3>パートナーシップ
地域の環境改善の実現には、市民側の組織化(横の連携)ばかりではなく、行政との連携や情報交換と、役割分担の認識、企業との連携や支援体制の整備など、市民、行政、企業はパートナーシップをとった円滑な調整、連携システムが必要である。
そこで、イギリスグラウンドワーク事業団の活動の視察研修や専門家を招いての調査研究を行うなかで、参考になる点が多かったため、英国で成功しているグラウンドワークの手法を活用することとした。
まさに、三島のグラウンドワークは、「市民内発型」の市民活動であり、そこに行政や企業を取り込み、三者による新たな地域総参加の体制づくりを進めたケースといえる。

「グラウンドワーク三島実行委員会」は仲介役に徹して、市民・行政・企業の三角形の中心に存在し、問題点を集約し調整を行う。
グラウンドワークは市民と行政、市民と企業というような線的な関係ではない。
濃淡や温度差があっても必ず三者がかかわっていることがグラウンドワークの基本なのである。
なぜあえて三者にこだわるのかというと、社会はこの三者で構成されているからである。
グラウンドワークは、三者を自立させ、自己変革させるための学習のプログラムであり、トレーニングの場である。

<4>活動実績
三島市内にあるさまざまな地域資源や歴史資源を掘り起こし発見し、その価値を地域の人々に訴え、潜在的な問題意識を揺り動かし、参加するという具体的な行動に誘う。
そして、みんなで成果を残す。
さらに継続して維持管理をしていく。
このようなプロセスに意義を置き、現在22ヶ所で活動を行っている。

【源兵衛川再生プロジェクト】
約46年間ごみだらけで悪臭を放った源兵衛川を、8年かけ、ホタルが何百匹も乱舞する川に再生させた。
ここは、源兵衛川の直接の管理者である土地改良区、行政、市民、農家の灌漑用水を供給する企業の四者がばらばらで、誤解や立場上のずれが顕在化している状態であった。
このような状況下に仲介役として参入し、少しずつ三者の有機的結合と融合を誘導していった。

【花とホタルの里づくり】
市内各所にある休耕田を選定、活用して、農業用水を浄化誘導することでホタルの住む環境づくりを進めるとともに、市民の手作りによる自然環境教育園を建設した。

【雷井戸の買収と整備】
江戸時代からある貴重な井戸を市民の浄財を集めて泉トラストを行い、買収して、地域資源の再生、整備をおこなった。

【三島バイカモの再生と維持管理】
昭和40年代以降消滅していた静岡県の天然記念物である三島バイカモを7年かけて復活させ、今では三島の各河川、湧水地で咲き乱れている。

<5>グラウンドワーク三島実行委員会活動の成果
(1)美しい水辺自然環境の回復と保全態勢の整備
公共的な施設をまちの宝物として慈しみ、愛護する気持ちが生まれ、美しい水辺環境が市民自らの努力と自主性により保たれるようになった。

(2)自立した市民の育成
地域への愛着と自信が芽生え、市民参加のまちづくり思想が普及した。

(3)信頼ある行政&企業のパートナー
企業には社会貢献と役割分担の意識づけが浸透し、継続的で具体的な協力関係がつくられた。
市民・企業・行政の協働により、整備費用の軽減が図られた。
また、行政の各種関係課の連携により、住民の希望に迅速で臨機応変な対応が可能となり、行政と市民が身近な存在となった。

(4)新しい市民組織のリーダー的存在
過去6年間で全国から6000人の訪問者がある。
専門的な能力をもつスタッフの育成と確保が進み、現在、実行委員会では60名のスタッフによりコーディネートや仲介役的な作業を行い、仕事上の専門性がボランティアとして地域に還元され、まちづくり専門家としての能力開発と人材発掘が進んだ。
また、三島市からの運営費補助を受けることにより、安定した組織運営が行われている。


3. グラウンドワークから学ぶもの

これからの日本を良い方向にかえていくためには、支え合い、思い合い、助け合いのシステム、いわゆる「○○し合う」ということを浸透させることが重要である。
相手のことを思いやるということである。

これがあれば、1/3の力で3倍の力を発揮できる。
今までは、企業は企業のことしか、市民は市民のことしか、行政は行政のことしか考えていないという、極めて非効率なシステムであった。
今までは問題に直面しても、誰かが解決してくれるだろうと傍観していた。
そうではなく、その問題を自分のこととして勇気をもって一歩を踏み出す。
とにかくやってみる。
これを実践できるのがグラウンドワークである。

グラウンドワークの活動の中で、市民が自立しパートナーシップをつくっていくと、自ずと行政の限界が見えてくる。
また同時に、企業の限界も見えてくるし、市民自身の限界も見えてくる。
その三者の限界をどのような形で超え、新しい力を生み出すのか。
三つのセクターをぶつけあうと、新たなパワーが生まれてくる。
グラウンドワークは小さなことから始める運動であるが、生み出す成果はとても大きなものである。

また、グラウンドワークの良い所は、三者がお互いの悪いところを主張するのではなくて、良い面 を出しあって、お互い同士の長所を引き出して、お互い同士を向上させて、新しい協調関係をつくることができるということである。
日本は今まさに、グラウンドワーク的な考え方をどのように地域型、日本型に変えていくことができるかという「知恵」と「行動力」、「勇気」が求められている。

特定非営利活動法人 グラウンドワーク三島

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