小林 光氏
講師紹介
小林 光氏
環境省大臣官房秘書官。1973年慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁入庁後、主に環境と経済、地球環境などにかかわる諸問題を担当。環境基本法策定、環境基本計画や政府の率先実行計画に携わる。95年以降、地球環境部環境保全対策課長として、気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)の日本への誘致、京都議定書の取りまとめ等を担当する。その後、自然保護局、秘書課長等を経て現職。


1. 本文


私は公務員の立場にいるが、今回は一市民の立場として、地球環境に負荷を与えないライフスタイルの実験者としての個人的な経験談を申し上げたい。
1997年、私が現在の環境省地球温暖化対策課の前身である環境保全対策課課長として在任していた時に、COP3が日本で開かれ、京都議定書が策定された。
京都議定書では日本は、2008年から2012年の間に、90年時点のCO2等の排出量の6%削減を目標にすべく、工場でのエネルギー消費効率の改善を義務付ける地球温暖化防止対策などを検討した。しかし、規制などの措置が難しいのが家庭での取り組みである。実際に家庭からのCO2排出量は、工場からの排出量の1/3ほどに達するほど、大きいのである。しかも、世帯数が増加している現在では、ますます家庭からの排出量増加は避けられない状況にある。
私は個人的にも、一生活者の立場として、どうしても家庭での自主的な取り組みは必要だと実感していた。家庭でCO2抑制に取り組んでも、頑張って減らせるのはせいぜい1割程度だ。やはりハードウエアを変えていくことが重要だろう。
私の場合、ちょうど両親と同居することになり、二世帯住宅に建て替えることになったために、環境対策を実験しようとエコハウスに取り組むことにした。
私は以前からエコハウスには関心があったので、かなり大胆にいろいろな技術を入れてみようと考え、30項目以上の環境対策を導入してみた。
このことは、個人の満足と言うよりは、エコハウスを普及させるための実験と捉えていた。したがって、構想段階から、施工技術、竣工後のパフォーマンスなども、データを取って公開していこうと考えていた。またエコハウスが環境対策のかたまりのように見えるのは美しくないので、なるべくシンプルなデザインになるようにも心がけた。
結局、竣工して1年目には、約100人位の人が見学に来た。現在は、応対が難しくなってきたので、見学はお受けしていないが、かわりに雑誌の取材には応じるようにしており、紙上では我が家におけるCO2排出量の年間変化などの細かいデータを公開している。

我が家で行った環境対策の主な目的は、廃棄物の適正処理・リサイクル、長寿命化、地球温暖化の防止、水の循環、化学物質汚染の防止、地球環境との調和の六つである。
地球温暖化防止対策の目的としては、省エネ、自然エネルギー採用による創エネ、CO2を貯留して生長させた木材の利用の三つ。
具体的な対策は以下のようなものである。また、実現できなかったことや、竣工後にあらためて改善工事として行った環境対策も紹介しておく。

●環境対策の概要
1.廃棄物の適正処理リサイクル
  ・建て替え前の古屋の分別解体
  ・リサイクル可能なムク材・鋼材などの利用

2.長寿命化(ライフサイクル化での環境負荷低減)
  ・基礎コンクリの強度確保
  ・小径木材の利用
  ・外壁内喚気
  ・ムク表し梁や月桃壁紙による湿度調整

3.地球温暖化の防止
(1)省エネ
  ・外壁・屋根下などの高断熱化
  ・断熱複層ガラス窓、断熱ドアによる開口部断熱
  ・総合熱効率に優れたガスヒーポンによる空調
  ・インバーター照明
  ・液晶TVなど節電型家電
  ・南壁緑化
(2)自然エネルギー利用による創エネ
  ・太陽光発電
(3)二酸化炭素を貯留して生長した木材の利用
  ・太陽熱床暖房
  ・太陽熱給湯
  ・非常用電源としての風力発電
  ・薪ストーブ
  ・夜間の屋根放射冷熱や地下室自然冷気の取り入れ
  ・ムク材などの木材活用床面積1u当たりの木材使用量で全国平均を13%超
(4)水の循環
  ・風呂排水の浄化と中水(トイレ洗浄水)としての利用
  ・雨水の貯留と散水・中水への利用
  ・玄関アプローチの透水性舗装
  ・節水型家電(横置きドラム式の洗濯機、食器洗い洗浄機の採用)
(5)化学物質汚染などの防止
  ・各所の木材表面保護に亜麻仁油を使用
  ・地表に近い木材の防蟻処理に天然素材(月桃液)
  ・壁紙張りにはノンホルム接着剤
  ・一部に使った合板はF1級に限定
  ・炭化水素(ノン・代替フロン)冷媒の冷蔵後の採用
(6)地域環境との調和
  ・外構に万年塀を不採用(緑化フェンスに在来種常緑蔓草を採用)
  ・高木植栽も自然植生に応じて樹種選定
  ・水道加圧ポンプの防音ブロックによる密閉
  ・水道受水槽への消音弁の採用

●実現しなかったこと
  ・生ごみコンポスト
  ・自然素材の外壁
  ・屋上緑化、など

●竣工後に改善工事として行った環境対策
1.省エネ対策
  ・冬季屋根裏暖気の床下蓄熱層への送風
  ・老人室暖房のエアコンからハロゲンランプによる輻射熱暖房への切り替え
  ・老人室窓に断熱用の厚手カーテンの採用
  ・老人室の小電力加湿器の採用(計画中)
  ・自動消灯用人感センサーをキッチンへ設置
  ・洗面所換気扇などに自動オフスイッチを設置
  ・窓の機密性の向上太陽熱温水を食器洗い機にも給湯
  ・ポンプ負荷を削減する雨水排水先の調整
  ・中水設備への流入負荷のカットによる暖気エネルギーの削減
  ・網戸増設による通風の向上
  ・日射量を調整する可動庇の採用(計画中)
2.創エネ対策
  ・太陽光発電への障害物(雪止め)の除去
  ・風力発電の充電量向上
3.節水対策
  ・節水型シャワーヘッドなどの採用(計画中)
  ・トイレ洗浄用水の吐水量の削減
  ・流入量増大のための雨水パイプ内の洗浄とストレーナーの除去

環境対策で大きな結果が得られたのは、断熱対策である。断熱はエコハウスの必須アイテムであるともいえるだろう。我が家の場合、CO2削減量全体の3割以上は断熱することによって達成できた。また、OMソーラーシステムを基本にヒートポンプを採用。ガス式と電気式とを比較し、発電効率まで含めた総合熱効率の良いガス式を採用した。また、断熱の材料も珪藻土や月桃紙など、いずれもコストを比較しつつ、採用できるものを検討した。建築のように大きな経費がかかる場合には、諦めずに代替案を考え工夫するのもエコハウスならではのものだろう。
結果的には、水道、ガス、電気使用量をCO2排出量に換算すると、建て替え前二世帯合計との比較では、年間42%の削減に成功した。
そして何より住み心地が素晴らしい。太陽光発電など自然を利用している実感があるのか、子供たちは毎日の天気の変化に関心を持つようになった。
今後も改善を進めてできれば50%までに削減効率を高めたいと思っている。

しかし、経済性はどうか。
環境対策費は、発電設備や中水・雨水利用設備工事など、通常の建築工事以外に必要となったものも含めて約951万円である。これをどう回収していくかというと、1年目には168万円を回収したが、これは新エネルギー財団などからの補助金である。今後も、太陽光によって暖房・電気代が安くなる分を回収していくという考えで、投資と回収の年間推移を予測すると、951万円の単純投資回収年数は35年である。一般の住宅の平均寿命が約30年といわれているので、その位の年数を要して元がとれるという理解だろう。
一般的な投資と回収の考え方からみれば、エコハウスについては経済性は度外視せざるをえない。
しかし、まだまだ細かい環境対策は可能である。家電や材料資材、技術などの環境負荷に対する技術開発の余地はあるしその可能性も大きい。また、エコハウス建築に対する低利融資や固定資産税の評価として環境投資分控除などの、ソフトにおける支援対策も考えられる。そうして将来的にエコハウスが当たり前になれば、価格はもっと抑制されるはずである。
いずれにしてもエコハウスは、地球環境のためにどのようなライフスタイルができるのかという課題に対する、一つの可能性のある回答だろう。
大切なのは、私たちが地球に住まわせてもらっている家賃はきちんと払うという覚悟だと思う。


 
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