安井 至氏
講師紹介
安井 至氏
東京大学生産技術研究所教授。昭和20年東京生まれ。昭和43年東京大学工学部卒。
東京大学大学院工学研究科工業化学専攻。工学博士。平成2年7月より現職。
平成8年より同大学国際・産学共同研究センター長。


1.地球資源と人間の将来予測

地球には2種類の能力があり、人類はそれを人類の発展のために利用している。

<1>環境処理能力&一次生産能力
・太陽エネルギーを駆動力としているもの。
・ソフトパスエネルギーの提供。
・再生可能資源の提供。
・植物資源の提供。
<2>備蓄資源提供能力
・地下金属資源
・化石燃料

再生可能資源は、すべて太陽エネルギーの変形で、森林資源、そのほかの植物、漁業資源、放牧、自然農業、水力発電、太陽光発電、風力発電、波力発電などがある。

では、地球資源との関係を切り離して、ヒト自身は持続できるのだろうか?
環境要因での大きなリスクは回避できるだろう。そのためには、時代の変化を読むことが必要である。
DNAは多様化の方向にある。これは我々が自然淘汰のない社会を選択しているからだが、多様化は劣化とも読める。
リスクを回避しすぎると逆効果になる場合がある。例えば、日本人だけがかかる下痢。非常に強度のアレルギー:感染症不足、等。

縦軸に「環境負荷」、横軸に「経済的スケール(GDP)」をとり、グラフ化してみた。便宜的に三種の「環境負荷」を設定した。第一は、「公害型環境汚染」である。1960年代に象徴されるように、環境を省みずに経済成長のみを追求すると、「環境負荷」はどんどん蓄積される。
この「公害型環境汚染」に対しては、1970年以降厳しい環境規制や環境技術の向上により解決へと向かうことができた。しかし、現代において同じ「公害型環境汚染」でも、交通公害のようにデイーゼル排気ガスによる大気汚染は減ってはいない。車の輸送はモノを消費すると増加する。第二番目として挙げる「消費型環境負荷」は下がらないのだ。「消費型環境負荷」は、経済スケールを上げるようとすると「環境負荷」を避けることはできない。第三番目の「バックグラウンド」は、常に人間活動によって必ず環境に蓄積されるものを指している。我々はこれらが何なのかを監視していなくてはならない。
我々の将来予測として、経済的スケールを下げながら環境負荷を下げるという考え方と、より豊かさを追求しつつしかも環境負荷を下げようとする考え方がある。我々の生活は、我々がどのような社会を選ぶのかにかかっている。



2.日本の法制度
 【平成12年時点の法的枠組み】


<1>循環型社会基本法
通産省産業構造審議会、地球環境部会、廃棄物・リサイクル部会が方向性を決めているように見える。
大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済システムからの転換が迫られており、環境や資源の制約への対応を産業活動や経済活動のあらゆる面にビルトインした、いわば環境と経済が統合された新たな「循環型経済システム」を構築することが急務である。

「1Rから3Rへ」(産業構造審議会の答申)
リサイクル(Recycle)だけの社会から、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、 リサイクル(Recycle)の社会へ。

リデュース(Reduce) :省資源、長寿命、リペア
リユース(Reuse) :製品リユース、部品リユース
リサイクル(Recycle) :マテリアルリサイクル
 サーマルリサイクル(=高度エネルギー回収)

この法律は、これらをうまく組み合わせながら、より合理的で持続的な社会を実現していこうという考え方である。実際には、リデュース、リユース、リサイクルの順番で行うのが妥当だ。リサイクルは最後の手段であることを確認しておきたい。

リサイクルとは、廃棄物を減らすために廃棄物になりそうなモノを回してエネルギーを投入して再利用することであり、これはある意味では産業になる。リユースと組み合わせてリデュースを実現しようとする。例えば同じモノを3回使用とすると、明らかに製造する際に投入する物質量は減る。全体としても循環する物質量は減る。しかし、本当に新しい資源を使用せずにリデュースReduceだけで経済成長はできるかという問題は残る。その覚悟をしなければならないというのが我々のおかれている現状ではないだろうか。
廃棄物の問題はかなり重大だ。現在日本では、家庭ゴミなどの一般廃棄物の最終処分地がまだ増加している。残余年数はまだ十数年あるかもしれない。一方、産業廃棄物は、首都圏では非常に厳しい現状である。ゴミがあふれるのは寸前である。実際にあふれることはないかもしれないが、廃棄物処理のコストは高くなるだろう。とすると、製造側のコストが高くなるかもしれないという危惧はたしかに起こる。

<2>容器包装リサイクル法の欠陥
この法律は、廃棄物の減量に重点をおいたもので2000年4月から完全施行された。しかも初めての試みで、事業者負担を少しでも増やそうとしたため、自治体の役割分担が不十分であった。そして、結果的には、ペットボトルに極めて有利に作用し、リターナブルボトルに不利に作用した。

<3>家電リサイクル法
2001年4月から施行。冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコンの4種について、メーカーにはリサイクル、販売する小売店には消費者からの収集、メーカーへの引き渡し、消費者へは、リサイクル費用と運搬費を負担させる内容である。この法律で不法投棄は増えるかどうかは分からない。実験的な試みではある。

<4>食品リサイクル法
レストランやスーパーなど事業系の食品廃棄物はリサイクルするという内容である。食糧自給率が約40%の日本では、ほとんど輸入食品で占められる食品廃棄物をコンポストして畑に戻すと土壌は栄養過多になるだろう。この法律は、出口規制による食糧自給率アップが目的だと思われる。

<5>建築廃材リサイクル法
量の大きい建築廃材については、最終処分地不足の解消が主な目的である。

<6>グリーン調達法
グリーンとは、当面は、「再生材料」、「再生部品」で作られているかどうかが評価項目である。次は、「再生可能資源」という評価で、最終的には「LCA」的な条件盛り込まれることを期待したい。



3.環境負荷の定量化法とLCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方

「エコ」や「グリーン」とは、地球が持っている二つの能力と人間活動のバランスで定義される。入り口(:地球側から何をとりだすのか。地球をどれくらい掘るのか。)と出口(:環境にどのくらいのものを負荷かけるのか。)をしっかり見張れば、「エコ」かどうかがわかるだろうというのがLCAの根本思想である。
原材料の取得や製造工程、使用・再利用・保守、リサイクル、廃棄などの各ステージごとに、それぞれの物質は、地球からどれくらい採取して、環境にどれくらい負荷をかけているかの数値をデータベース化していこうというのがLCAの中身である。
ここ数年、LCAはだいぶ一般的な言葉になり注目されつつある。
理由は、環境問題が21世紀最大の問題であることが企業自身に浸透してきたこと。また、環境管理監査の規格であるISO14001による国際規格化、この規格14040にLCAの規格が含まれていたことも大きい。
そして、これまでのリスクゼロという思想が破綻しつつあること。環境負荷の定量的表現法の必要性が高まったこと。トレードオフの認識が高まったことなども大きな理由となっているだろう。

しかし、このLCAという考え方は、実は生協で、以前から取り組んでいた考え方である。生協では飲料容器にLCAの考え方を導入した。飲料容器というのは究極的には不要のもので、本当は容器なしで売れるのであればそれが一番いいはずある。本来なしで済ませられるはずのものは、できるだけ環境負荷を下げたい。
私たちは、このようなデータをさらに詳細に検討したいと考え、研究者や企業などがメンバーとなり9か月間検討した結果 を報告書としてまとめた。この試みの概要と目的は以下のようなものである。
今までのデータは散発的だったので、統一的に取り扱う。
廃棄プロセスにシナリオを設定する。
改良をめざした未来型の予測もおこなってみる。
対象:500mlの容器。ペット、ガラス(ワンウエイ、リターナブル)アルミ缶 、スチール缶、紙パックの環境負荷比較を行う。

これらの研究によって「超簡便型LCAの薦め」という考え方をまとめてみた。
既存製品との比較用
カテゴリーは4つ
  LCエネルギー(CO2)
LCバージン資源量(率)
LC汚染型環境負荷
LC最終処分量
目標:上記の4つのカテゴリーの数値すべて1/2に!!

リサイクルフローで考えるリユース、リサイクルの有効性をシミュレーションしてみる方法も有効である。

では、リユースやリサイクルは絶対に良いものなのか。
【例/ミツカンのワンウエイ化】
ミツカンではかつて500ml・900mlの酢のビンはリターナブルだった。だが、実際には、1.1回しか回らず、また、リターナブルするために強度を上げる必要があり、ワンウエイと比べて20%以上重い。すると、ゴミとしても増大する。最低でも3回は回らないと、回収、洗浄の負荷が増える。結果 、無色のワンウエイビンになった。
ここでの教訓は、飲料のように迅速かつ大量に循環しないビンの場合には、「共通ビン」という考え方が必要ということだ。

<リサイクル、リユースの効果>
リユースはより有効であることは明らか。しかし、それでもリユースが無駄な場合もある。リサイクルはやらないよりはやったほうが良い。しかし、下手なリサイクルはやると逆効果 になる場合もある。

環境負荷を時間へ変換する考え方も重要である。
1年分の環境負荷を1年という時間に等しいと仮定すれば、基本式は次のようになる。
時間(年)=その製品による環境負荷/ある範囲内の1年分の環境負荷
(ある範囲とは、地球レベル、国レベル、地域レベル。)

<リターナブル容器の成立条件>
・複数本の容器が消費サイトに存在すること。
 業務用は全く異なった容器。
 可能と思われるものは、ビールや牛乳、ミネラルウオーター。
・何よりも、流通業界がイニシアチブを取ってほしい。

<容器材質推薦順位(私案)>
1.ペットリターナブル:ミネラルウオーター
2.ガラスリターナブル:ビール、牛乳
3.紙の1リットル:冷蔵庫に入る飲料
4.紙の小型容器:自動販売機なら
5.アルミ缶:ビールと炭酸飲料
6.スチール缶:ホットで飲む場合。
7.ガラスワンウエイビン
8.ペット被覆スチール缶
9.500ml&小型のペットボトル
10.大型のペットボトル

<反リサイクルの誤謬>
今のリサイクルは妙だと唱える研究者も少なくない。例えば、「その他プラスチックゴミ」として、マヨネーズのチューブなどを回収している自治体がいくつかあるが、ゴミとして出すには、チューブを洗わなくてはならない。そんな面 倒臭いことを誰が好んでするだろうか。そのようなチューブで売らなければ良いと考えるのが普通 だろう。また、引きとり手がいなくて、野積みされたペットボトルが問題になった自治体もある。
結果、反リサイクルの主張は、
・コスト的にみて、環境負荷が高い。
・輸送の環境負荷が高い。人力の環境負荷が高い。
というものである。しかし私は、人件費は環境負荷にいれるべきではないと主張する派の一人である。


4.まとめ

容器は中身が入っているうちは製品であるが、なくなった瞬間にゴミになる。容器の環境負荷はおおむね固形廃棄物だ。固形廃棄物は出さないほうが良い。そのためには、リユースして使用することが重要である。ペットボトルがリターナブルできればもっと良い。実際、オランダやデンマークやではペットボトルもリターナブル化している。家庭に1本しかないようなお酢はリターナブルできないかもしれない。でも、ミネラルウオーターような量 が多く、頻度が高いものであればペットボトルでもリターナブルは可能である。確かにリターナブルされているペットは傷が多くてきたない印象を持つ。ヨーロッパの人々は平気で利用しているが、我が国では受け入れられるだろうか。そのあたりの価値観の合意をとれるかどうかが、この問題の鍵かもしれない。

私は、社会全体が循環型社会に向かっているという現状において、今のリサイクルの実状に多少矛盾があるにせよ、市民社会の教育のためにも必要だと思う。要はペットボトルをゴミにしない社会をつくらなければならないということである。
ペットがゴミになったとする。ゴミになった段階から考えるのであれば、確かに焼却がベストなのかもしれないが、ゴミにならないような社会をつくらなくてはならない。そのためには、リサイクルを体験することにより、面 倒臭さを実感する。例えば、マヨネーズを洗ってみて初めて、なんでこんな面倒な容器なんだろうと思うのではないか。そういうことを経験することだと思う。

究極的には、一人一人の環境観の変換が必須なのである。
身の回りの環境問題優先から、地球レベルの問題を優先してほしい。一人一人が500年後の地球のリスクを想像してみてほしい。少なくとも、現在の日本の超清潔、超健康主義は、地球環境問題の解決には逆行する考え方であろう。
循環型社会では原則として、大きなリスクは社会全体で回避する。小さなリスクは、個人で受容する。そして、将来世代への大きなリスクを回避することを常に念頭におく。社会との連携において、個人の役割は大変大きい。そのためにも環境教育が重要である。


5.参考文献・ホームページ

●LCAの解説書及び資料集
書名 発行
LCA手法による容器間比較報告書 容器比較研究会(2000)
LCA実務入門、社団法人産業環境管理協会編 丸善(1998)
ライフサイクルインベントリー分析の手引き 化学工業日報(1998)

●環境未来予測について
書名 著者 発行
市民のための環境学入門 安井至 丸善ライブラリー(1998)
21世紀の環境予測と対策 安井至編著 丸善(2000)

●インターネット
http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/

 
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