古田尚也氏
講師紹介
古田 尚也氏
三菱総合研究所地球環境研究本部研究員。平成2年東京大学農学部農業生物学科卒業。平成4年東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。


1. はじめに

持続可能な発展とは、具体的にどのようなものを意味するのか。そこにたどり着くために、どのような道をたどればよいのか。効果的なリサイクルとリユースをすれば、持続可能な社会が実現するのだろうか?
人によって、持続可能な社会を実現するための方法へのイメージはさまざまだと思われるが、ある程度の全体像のビジョンや具体的な目標の合意をつくっておくことが重要である。こうしたビジョンは、さまざまな国々や関係機関で作成しているが、私の知る限りでは、スウェーデンの環境保護庁が作成した「2021年のスウェーデン」がもっとわかりやすくできているものだと思われるのでここに紹介したい。
スウェーデン環境保護庁が作成した未来研究「2021年のスウェーデン」は、1995年から4年間にわたり、科学者、政府機関、農業、林業、交通セクターなど幅広いセクターの人たちが参加し作成した。社会の構造的な変革を実現し、技術の発展についてある程度正確な見通しがたつ期間を25年とみなし、研究を開始した1995年から25年後にあたる2021年の向かうべき社会を予測したのである。
その具体的な予測のビジョンの総括は以下のようなものである。


2021年、
私たちは、小さなエネルギー効率のよい家に住む。
食料生産に使われるエネルギーは1/3に減少する。
私たちが消費する肉は、放牧地で育てられた牛や羊である。
私たちの交通手段として使われる乗り物は、エネルギー効率が良くなる。そして店や職場までの移動は情報通信(IT)コミュニケーションに変わるだろう。
60万haの農地は作物からバイオエネルギーの生産に転換される。
森林のある部分は、窒素肥料を用いてしっかりと管理される。ただし他の多くの場所は自然保護区に認定される。
家庭用品と家電は、現在の1/4のエネルギーで作られる。

こうしたビジョンの実現による持続可能な社会のイメージを示すことが未来研究「2021年のスウェーデン」の目的である。これはSFの物語ではないし、また1950年代の生活に戻らなくてはならないということではない。これは、どのようにすれば持続可能な社会を実現できるのかという正しい未来の選択の問題なのである。そして、こうした変革はもうすでに始まっている。リサイクルとリユースの具体的な取り組みや、省エネ型の電化製品が従来のものと置き換えられつつある。再生可能なバイオマスエネルギーが化石燃料にかわって使われ始めている。

「2021年のスウェーデン」では、さまざまな社会のセクター間の相互関係について分析している。農業と食品産業、製造業、消費財製造業、林業と木材産業、家庭とオフィスなど、各セクター間は互いに影響しあっている。交通セクターはすべてのセクターに関係しているし、バイオエネルギーの利用は、農業や林業と関連している。食品の栄養分は 農業セクターから食品産業、店、家庭を経由して下水に流れ込む。栄養分はそこで捕らえられて農地に戻されることが必要である。こうした各セクター間の関係が矛盾しないために、分析をおこなった。



2. ビジョン作成の方法

<1>2021年の環境目標の設定

そのために生態学的な持続可能性の定義を明確にする必要があり、以下の3項目の目標を詳細に設定した。
(1) 土壌と水に関する目標:生物資源(食料、繊維、燃料など)の生産手段としての森林と農地を、生物多様性と土壌の生産能力を保全する方法で、長期的に使用することである。
(2) 非再生資源に関する目標:下水に含まれるリンを農地に戻すこと、天然砂利の採掘を減らすこと、金属をリサイクル、リユースすることである。
(3) 廃棄物と排出に関する目標:二酸化炭素の排出量の90%削減、リンと窒素の水域への流出の半減、環境に有毒な物質の使用禁止である。

<2>目標達成のための2つの未来モデル

この未来モデルとは、「タスクマインダー」と「パスファインダー」である。また、4つの国際環境シナリオを設定し、ビジョンの頑強性を検証した。これらのシナリオと未来モデルを総合して、2つのシナリオがもたらす結果についての検討した結果、多くの場合において、2つのシナリオを組み合わせたビジョンの作成が効果的であることがわかった。さらに、ビジョン実現のための方法や課題を検討した。


2つのモデルの概念比較
「タスクマインダーモデル」
物質フロー
広範囲の供給エリア(地球、地域)
広範囲の流通システム
閉鎖的システム内の有限資源
リサイクルによる資源の保全
建築物の特徴
高密度の居住地
テクノロジー
大規模かつ特殊化
特徴
現状のインフラ維持と最適化
集約的な農業
重点的な保全を行う林業

「パスファインダーモデル」
物質フロー
小規模な供給エリア(地域、ローカル)
小さな流通システム
自然の循環に統合された再資源
ファクター4の原則に基づく資源の保全
建築物の特徴
まばらな居住地
テクノロジー
小規模かつ多様
特徴
現状のインフラは置き換えられるか、排除分散型農業
保全がミックスされた林業

<3>農業のビジョン〜エコロジカル農業

未来のビジョンを語る前に、1970年代から現在まで、農業と食料供給システムがどのように発展してきたか振り返っておきたい。スウェーデンではこの24年の間で、農業生産は大幅に増加した。

冬小麦の生産量:1ha当たり50%増加、
ミルクの生産量:50%増加、
農家数:15600戸→89000戸、
農地:250.000ha減少した。
乳製品工場:426→73
パン工場:2239→1457
流通センター:203→33
トラック:121.859→313.501

過去25年間でこのような劇的に変化したのであるから、今後25年間後に、持続可能な方向に変化できないとは言えない。

こうした目標を実現するために農業セクターにおいても二つのシナリオで達成度を予測してみた。

「タスクマインダー」
化学肥料や農薬を使用しながらも、より環境に優しくかつ効率的な農業とする。従来型の農業がより環境に配慮した形に変わる。家畜の飼料は大量の穀物が使用される。タスクマインダー型農業の環境面での利点は大きいが、景観の均一化と生物多様性の減少をもたらす。除草剤や殺虫剤の使用削減目標も達成できない。しかし、化石燃料と原子力発電を代替するための大量のエネルギー作物の需要を満たしながら、生産量の目標を達成できるだろう。

「パスファインダー」
農薬や化学肥料を一切使用しないエコロジカルな農業である。家畜の飼料は、さまざまな草と牧草である。牛と羊は放牧地で育てられ、景観と牧草地、生物多様性が保全される。しかし、パスファインダーモデルでは、食料生産目標のためにより多くの農地を必要とする。この結果、エネルギー作物の生産目標は達成できない。大量の牛を飼育するために窒素やアンモニア流出に関する環境目標を達成できない。
このように二つのモデルにはそれぞれのメリットとデメリットがある。二つのモデルの分析結果は、どちらのモデルもすべての環境目標を達成できないということだ。環境目標の達成のためには、二つのモデルを慎重に組み合わせることが必要だ。


<4>持続可能な農業を実現するために

農業のやり方を変えるだけでなく、生産地の再配分が必要である。
穀物の生産と家畜の生産には、地域間で大きなアンバランスがある。
スウェーデン南部では、家畜の飼育頭数が多いために、窒素やリンが農地から流出している。大量の糞尿の廃棄によりリンの循環利用ができない。スウェーデン中部では穀物の栽培が盛んで家畜飼育は少ない。こうした地域間のアンバランスは物質の輸送エネルギーの消費を生む。現在、農業セクターを持続可能にするためには、さまざまな障害がある。最大の障害は、EUの共通農業政策と環境に優しい農産物の収益が低いことである。産業としての農業は、EUによって定められたさまざまな補助金によって成り立っている。農業が持続可能型になるためには、持続可能な農業の採算が可能になるようEU補充金制度を変えていかなくてはならない。市場も変えていかなくてはならない。そのためにも環境ラベリングは大変重要である。環境マネージメントシステムとその認証取得も導入すべきであろう。

<5>食料供給システムを持続可能型にするための2つのシナリオ

「タスクマインダーモデル」
食料供給エリアは今日とほとんどかわらない。食料の大部分は加工食品である。輸送による環境インパクトはよりエネルギー効率のよい輸送手段を用いることで現在よりも少なくなる。食品製造業もエネルギー効率は良くなる。家庭ではインターネットで多くの食料を注文できる。

「パスファインダーモデル」
地域での生産と消費に重点が置かれる、。家庭では素材から料理をつくるので、加工過程で必要なエネルギーは要らない。多くの食料が地元で生産され、売られ、消費されるので、輸送エネルギーも減少する。廃棄物は各家庭でコンポスト化され農地に還元される。
これらの二つのシナリオを分析した結果、どちらのモデルでも2021年までにエネルギーの削減が可能になり、リンの循環利用も可能になることがわかった。しかし、もっとも最適なビジョンは、このタスクマインダーとパスファインダーモデルの二つのモデルを組み合わせることだ。これによって食料供給システムで、エネルギー消費量を1/3にすることが可能となる。
未来のビジョンでは、家庭は重要な役割を果す。キッチンではエネルギー効率のよい電化製品が使用される。料理もエネルギー効率の良い方法が採用される。少人数の家庭では、加工食品が多く使用される。買い物の多くは、車ではなく徒歩や自転車で行く。インターネットでの買い物も効率が良い。有機ゴミは分別され栄養分は農地に戻される。

現在の課題は、
エネルギー価格が安いこと。不適切な技術が用いられていること。さまざまな食料がどれくらい環境にインパクトを与えているかの情報が十分でないこと、である。

この100年間スウェーデンの生活は飛躍的に進歩した。
個人の所有物でみても、


1900年: 生活空間は一人当たり7平方メートル食料自給に頼り、必要最低限のモノしかなかった。
1990年: 生活空間は一人当たり47平方メートル、自動車、TV、家電製品、コンピューター、別荘、等等。

現在の我々の生活は必要以上のモノを持っているといっても過言ではない。この状況は、個人が環境に与える影響が非常に大きくなったことを示す。大量生産するためには、大量の物質が必要だ。モノをつくるための材料は、あらたに採掘される非再生可能資源を使用するか、農業や林業で生産される再生可能資源を使用するかである。現在、非再生可能資源の使用は約75%である。こうして製品は作られ廃棄されるかリサイクルにまわる。再生可能な資源で作られたものは、再び分解されて自然の循環サイクルに入る。
近年、循環という概念が環境政策の中心となっていて、ガラスやアルミ、紙はリサイクルシステムが完成している。しかし、こうした物質はまだごくわずかだ。ほとんどの物質は一方通行で廃棄されている。現在、1億6千5百万トンの物質が利用され、そのうちわずか200万トンがリサイクルされているだけだ。そのほとんどは紙と鉄だ。こうしたマテリアルフローを持続可能型にするために、二つの戦略で考えた。

「タスクマインダー」
リサイクルを強化する。

「パスファインダー」
ファクター4の原則に加えてエネルギーと物質の使用量を減らす。
これらの二つのシナリオを分析した結果、リサイクルの努力は続ける必要があることがわかった。リサイクルのシステムをより強化することによって環境への影響を低減する。しかし、同時にファクター4の原則が必要だ。資源は半分、利便性は2倍。トータルでは環境効率を4倍にしようという考え方だ。現在使われている非再生可能物質を再生可能物質に変えていくことも必要だ。



3. まとめ

「2021年のスウェーデン」は、持続可能な社会は実現可能としている。
多くの汚染物質と環境負荷は、2021年までに持続可能な水準までにもっていける。しかしこれは数十年ですべての環境が持続可能になるという意味ではない。環境負荷と環境の質を明確に区別して考えなくてはならない。人間社会で発生するさまざまな負荷は、2021年までに持続可能なレベルに近づく。しかし、長期目標の中に示された良質な環境の獲得には、もっと多くの時間が必要である。
しかし、この「2021年のスウェーデン」は、スウェーデンの持続可能な社会創造の基本目標が実現性のあることを示している。この未来研究では生態学的な持続可能性についてのみ考察するのではなく、異なった選択肢の経済的、社会的な関係についても分析をおこなったのである。このビジョンを策定後、1999年にはさらに15の環境目標が定められた。そして、15の目標を実現するためのさらなる詳細な分析がおこなれている。

 
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