講師紹介
藤井 絢子氏
滋賀県環境生活協同組合理事長。昭和21年神奈川県生まれ。上智大学文学部卒業。昭和46年滋賀県守山市に転居後、湖南生協に参加。以後せっけん運動などに携わり昭和62年同生協副理事長。平成11年より現職。
1. 買い物が世界を変える
1977年に初めて琵琶湖に赤潮が発生した。当時は、公害問題であれ地域の環境問題であれ何か問題が起きると、たいていは行政が悪いとか企業が悪いという視点で地域住民は行動を起こすのだが、琵琶湖に赤潮が発生したこのとき、生活者の対応は違っていた。私たちの暮らしそのものが反映されて琵琶湖に病変が起きたということは、「私たち自身にも責任がある」ということだった。
「私たちは被害者であると同時に加害者である」ということを明確に自覚したのである。こうして、リンの入った合成洗剤から石けんに変えるという石けん運動を展開し、スーパーに並んだ商品も変わっていった。
合成洗剤ばかりのスーパーの棚の中で石けんが並ぶ割合が増えていったのである。私たちはリンの入った合成洗剤は「買いません、使いません、人に贈りません運」動を展開した。リンの入った合成洗剤を大手メーカーが作らないというところまで発展できた最初の一歩だった。
「買い物が世界を変える」
これは、私たち滋賀県環境生協が、環境専門の生協として活動する上でキャッチコピーにしている言葉である。アメリカのグリーンコンシューマーに関するさまざまなガイドブックの一つ「より良き世界のための買い物ガイド」という本をヒントに採用したコピーだ。1989年6月に環境専門の生協を立ち上げて、10年以上活動を続けてきた。
しかし、滋賀県を含めてまだ世界を変えるところまでは行っていない。
食べ物をメインにした生協は全国に多くあるが、環境専門の生協はまだ我々の団体だけである。
私たちがなぜ大胆にも「環境」をテーマに生活協同組合を組織したかというと、地域でなかなか一緒に活動できなかった仲間である量販店・スーパーが、もっとも買い物する人にとって近い存在になってほしいと考えたからである。
生活者がスーパーに通うなかで、スーパーの陳列棚に並ぶ多くの商品をより良き世界に変えられるか。私たちのような小さなNGOだけでは到底無理だ。
しかし、多くの生活者にとってスーパーの陳列棚に並ぶ数々の品々は、買い物を考える上で格好の生涯学習の場になるのではないかと考えた。
2000年秋、私達はスーパーのトップに「スーパーはものを売るだけでなく、地域の人たちと一緒に地域の環境を考えるための生涯学習の場にしませんか」と提案した。
そして、この活動を「エコナビトルネード」と名付けた。
エコロジー、エコノミーの「エコ」とナビゲーター(道先案内人)の「ナビ」、そしてこれらが旋風(トルネード)を巻き起こす、そんな意味を込めている。
琵琶湖で新たな挑戦を始めることがあちこちに広がっていくことを願っている。
エコナビの活動で、現在、スーパーの棚が少しずつ変わり始めてきた。
最初に私たちは、環境に配慮された商品を「エコナビ商品」として認定する作業からとりかかった。たくさん認定できることを期待したが、残念ながら予想通りなかなか私たちの物指しにかなうものは少なく、100アイテムを探すのにとても時間がかかった。
地球環境を考え、賢い消費者「グリーンコンシューマー」になりましょうという運動がある。日本人は、このように環境に対する意識を高めライフスタイルを変えましょうという運動の意義は大変よく理解している。
しかし、実際の買い物行動にそれが反映されない。
意識と行動の差が埋まらないのが現状だ。意識と行動をつないでいかなくてはならない。そのためには、ものの供給側がどうすべきかが重要である。
そこで私たちは、グリーンコンシューマーとグリーンサプライヤー(供給者)がつくるという新しいマーケット、グリーンマーケットをつくることだろうと考え、今、両者に加わってもらった協議会を組織し取り組みを始めている。
そこの中で、まずインパクトのあることを打ち出そうと、琵琶湖という環境にある滋賀県の量販店だから言えることを検討をしている。
パッケージについて考える「エコ容器包装協会」もつくった。エコロジカルなパッケージ、素材の質、分別しやすさ、メーカーにとっても経費のかからない方法などを検討している。
これら一連の「エコナビトルネード」がどこまで発展できるか期待しているところだ。
2. 菜の花プロジェクト
琵琶湖には、400数十の川が注ぎこんでいる。
そして、琵琶湖から出て行く川は、人口河川の京都疎水以外では瀬田川一つでだけである。
琵琶湖はほとんど閉鎖水域に近いのである。
しかも、琵琶湖は、滋賀県だけでなく京都、大阪、兵庫のあわせて1400万人の水源地でもある。
そしてこの水源地のまわりには一般の暮らしがあり、農地があり、産業がある。
1970年代後半から始めた石けん運動は、琵琶湖の水を守るための運動として行った。
当初は、家庭から出る廃食油を回収し、石けんにリサイクルすることで、地域内に資源の循環を作り出そうという活動だった。
石けん製造のためにミニプラントも開発し、全国に400余台も普及している。
ところが石けん運動を生み出した「びわ湖条例」は、皮肉にも洗剤メーカーが無リン合成洗剤を製造・販売できるお墨付を与えることになり、石けん利用者を減少させていく。
それによって、廃食油を回収しながらリサイクル石けんづくりを進め、循環型社会を目指してきた私たちは、大量の廃食油を抱え込むことになった。
このとき、この難問を救ってくれたのが、ドイツで行われていた「菜種油燃料化プログラム」だった。
ドイツでは、1973年オイルショックの時にすでに化石燃料に頼らない代替エネルギーの開発として菜種油の燃料化計画を進めていたのだ。
1992年、私たちは、滋賀県工業技術センターでの廃食油燃料化の実験、配送車・トラクター・漁船を利用しての試用、プラントの設計、国・県への助成の働きかけなどを精力的に取り組んだ。
このBDF(バイオディーゼルフューエル)製造ミニ・プラントは、製品名「エルフ」として完成する。
1993年度に初めてプラントを設置した愛東町では、回収した廃食油をBDFに精製し、それを公用車の燃料として利用し、今や町のだれもが天ぷら油で車が走っていることを知っている。
1998年からは、回収した廃食油の精製・利用の段階からもう一歩進めた新たなプロジェクト「菜の花プロジェクト」をスタートさせている。
それは、転作田に菜種を播き、搾った菜種油を学校給食に使い、その廃食油を回収して石けんを製造したり、地域での車や農耕機械の燃料を精製するという、地域内で資源を循環するプロジェクトである。
地域の中にある再生可能な資源を再評価するとともに、地域が生み出すゴミをできる限り「資源」として地域内循環させる「ゼロエミッション社会」づくりへのプロジェクトであり、このプロジェクトの中で、子供たちや地域の人たちの環境教育も行っている。
さらに滋賀県がこの菜の花プロジェクトに興味を示し始めた。
1999年から、県のバックアップを得て、愛東町のほかに、八日市市、長浜市、守山市、新旭町で菜の花の栽培実験が始まったのである。
2000年の滋賀環境ビジネスメッセ2000でも会場とシャトルバスの燃料にBDFが使われた。
私は中央環境審議会の委員をしているが、現在検討されているディーゼル規制についても、日本では、バイオディーゼルについての情報が少なすぎる。
EUではディーゼルに対して否定的な運動は起きていない。
日本では使用されている化石燃料ディーゼルのイオウ濃度が非常に高いために問題になっているのだ。
私は先の中環審で、せめて化石燃料ディーゼルのイオウ分を500ppmからEU基準なみの50ppmまでに規制してもらいたいと提案した。
実際には業界の動きは早く、二つの石油メーカーでは設備投資をしてそのような基準をクリアする精製ラインを動かし始めた。
私たちが提案し、自ら試みてきた循環型社会への地域モデルづくりが、まず住民の共感を呼び、そして市町村・県という地方自治体レベルまでに動きを見せ始めたというのは私たちを元気づける出来事である。
さらに、循環型社会の実現に向けて重要な企業参加という動きも、兆しが見えてきた。
滋賀県の中に、県内企業が20社ほど集まって新事業創造を目指す協議会(新事業創造推進協議会)がつくられている。
この協議会では、構成企業が新しい企業事業のプレゼンテーションを行い、それに賛同する会社が集まって新しい会社を設立し、新事業を生み出すことを目指しているが、2000年夏、私たちにBDF製造ミニプラントエルフの生産を含めたプラント開発製造の申し入れがあった。
3. 世間よし
私が初めて滋賀県に引越してきたときに、近江商人の商いの方法を学んだ。
それは「三方よし」という商人道の考えで、この意味は「売り手よし、買手よし、世間よし」というものだ。
普通企業が商売するとき、売り手と買い手のやりとりだけでないだろうか。
しかし、近江にはここに「世間よし」という概念が入る。
「世間よし」とは地域の環境に良いという意味にも解釈できる。
地球環境まで見つめると「世界よし」にまで広がるだろう。
私は今、「三方よし」の考え方を「買い物が世界を変える」に取り込んでみたいと考えている。
さらに、ものをつくるところまで取り入れて「孫子(未来世代)よし」という「四方よし」はどうだろう。
私は、長く生協活動をしてきて、地域の生活者の視点からさまざまな方法で取り組むことの実現性を実感できるようになった。
今後もさらに「地域自立」をキーワードに、地域の視点からライフスタイルを見直し、循環型社会の実現を目指したい。
滋賀県環境生活協同組合ホームページ
http://www.econavi.or.jp
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